
自動車部では、車体の部品の多くを自分たちの手で製作しています。
春休みの今日、中学2年生4名が製作していたのはブレーキ用の「アップライト」と呼ばれる部品。
業者に外注して製作してもらうこともできますが、自動車部のメンバーは、アルミの塊から自分たちで削り出して製作することを選択しました。
使用するのは、工学院大学の実習施設「ものづくり支援センターFLAT」にある大型の工作機械”フライス盤”です。
使い方を誤れば大きな危険も伴う機械で、誰もが簡単に扱えるものではありません。

外注すれば手に入る部品。
時間も労力もかかる作業。
完成した車体からは見えない、地味で地道なものづくり。
なぜ、そこまでして彼らは小さな部品を「自分たちで作る」のでしょうか。
自動車部顧問の島田副校長はこう話します。
「生徒たちが『自分たちで作ってみたい』と思っているんです。
外注はお金がかかるというのもありますが、それ以上に、自分たちで作ること自体が勉強だから。ここは学校ですからね。」

こうした大型の機械を使うためには大学の先生方による安全講習を受け、講習を修了した生徒だけが機械を扱うことができます。
安全講習の修了は、機械を使う大学生と条件は同じです。
活動中も、顧問や大学の先生方に見守られながら作業を行います。

大学の須山先生は次のように話してくださいました。
「中学生でこうした機械を使う経験は、なかなかありません。
工業高校で行うような内容です。こうした機械は大きな危険も伴います。
大学生も同じですが、こうした作業には適性もあり、だからこそ一人ひとりの様子を丁寧に見ながら指導しています。
今日はスムーズに作業を進めているようだけれど、危険は潜んでいる。
だからこそ慎重に見守っています。」
そう話しながらも、先生の視線は中学生の手元から離れません。
固定台のハンドルを逆回転させそうになる中学生に気づくと、すぐに駆け寄り、そっと回転方向を正します。

フライス盤の前では、生徒たちがラフな手書きの図面を見せながら、須山先生に工具が切り出す寸法とその方法について相談していました。
「ここ、1:2:√3で出せるところですよね。」
「そうだね、その公式でいい。計算してごらん。」
机上で学んだ数学が現実に落とし込まれる瞬間です。
寸法を決め、0.1mm単位で効率の良い加工方法をアレンジしていきます。
その会話は対等で、大学の先生に対して中学生たちからは「別の工具を使ったほうが良いのでは」「その方法では困ります」など、ポンポンと意見が飛び出します。
そのテンポの良いやり取りは、完成品の明確なイメージと制作意欲があるからこそ生まれるものです。
島田副校長はこう話します。
「設計には三角比や三角関数が必要になりますし、実際に必要な計算を行って初めて、数学や理科の勉強の必要性に気づくことが多いでしょう。やりたいことを通して、机の上の勉強と実体験がつながる。この経験は大きいと思います。まずは学校の勉強が第一。それは生徒たちに常に伝えています。」
現在、自動車部では、乾電池を動力とする電気自動車とソーラーカーの製作を並行して行っています。
自動車の制作は機械加工だけではありません。
材料の性質や加工方法、電気回路、電池の特性なども考えながら製作を進めています。
溶接を使用する工程があったり、レース中のドライバーとの情報伝達をデジタルで行うシステムを構築したりと、彼らの「やりたいこと」に必要な分野は多岐にわたります。
数学、物理、化学、電気、情報といった教科で学んでいることが、こうしたものづくりの中で一つの線としてつながっていきます。

活動の進め方も特徴的です。
設計をする生徒が中心となり、「この部品なら自分ができる」と立候補する形で役割を決め、チームで製作を進めていくといいます。
「中学生だからここまで、高校生だからここまで、という分け方はしていません。チームで話し合って決めています。」(島田副校長)
異なる学年の生徒が一緒に活動する中で、学年に関係なく対等に相談しながら一つのものを作り上げていく。それもこの部活動の大きな特徴です。

本校は、中学校・高校・大学が同じキャンパスにあり、生徒にとって大学は「いつか行く場所」ではなく、まずは「すぐ隣にある場所」。
大学の設備を使い、大学の先生方に安全講習をしていただきながら活動するだけでなく、日常的に大学のソーラーカーチームの教授や学生から技術的なアドバイスや指導を受けています。
中学生と高校生が一緒に活動し、そのすぐ隣には大学生がいて、同じものづくりに取り組む。
この環境の中で、生徒たちは少しずつ技術を身につけ、やがて憧れの工学院大学のソーラーカーチームへと進んでいく生徒も少なくないといいます。
実際に、自動車部の卒業生の中には、大学で機械工学や電気系の分野に進み、自動車会社の設計や開発に関わる仕事に就く生徒も多いとか。
中学・高校でのものづくりの経験が、そのまま進路につながっていく。
そうした環境の中で活動できることも、自動車部の特徴の一つです。
知識を学ぶ場所と、知識を使う場所が、同じキャンパスの中に。
学びは教室の中だけで完結するものではなく、人や場所、社会とのつながりの中で形になっていきます。
社会や産業と最先端の学問をつなぐ工学院の「工の精神」は、こうした中高生の日々のものづくりの中にも息づいています。(広報室)
※当日の様子はInstagram(リール動画)にて