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【中学2年生インターナショナルクラス】”英語で思考する”文学の授業をレポート!

中学2年生インターナショナルクラス、Jon先生の英語の授業では、数回にわたり文学 (Literature) 研究の導入としてミュージカルを使って授業が行われています。

—— Hadestown「A Gathering Storm」より

スクリーンに映し出されたのは、ブロードウェイミュージカル『Hadestown』の一場面。古代ギリシャ神話のオルフェウスとエウリュディケの物語が、アメリ大恐慌時代の舞台に重ねられた作品です。

元となるギリシア神話のあらすじを簡単に紹介しましょう。
竪琴の名手オルフェウスは、愛する妻エウリュディケを失います。彼女を取り戻すため、冥界の王ハーデスのもとへ旅立ち、理想と希望を奏でる音楽の力でその心を動かします。ハーデスは条件を出します——「地上に出るまで、決して振り返ってはならない」。しかし出口の直前でオルフェウスは不安に負け振り返ってしまい(信じることができなかった)、エウリュディケを再び失ってしまいます。『Hadestown』は、この神話を現代社会に置き換え、人間の希望と絶望を描いたミュージカルです。

この日の授業は、第10曲「A Gathering Storm」。
季節は冬。ペルセポネ(冥界の王ハーデスの妻で季節を司る女神。彼女が地上にいる間は春と夏が訪れ、冥界に戻ると冬が訪れる)が地上を離れ、世界から光が消える場面です。
教室には英語の歌詞が並び、静かに音楽が流れはじめました。


「Till someone brings the world back into tune」
——“世界を再び調和の中に戻すまで”。

Jon先生はその一行を指さし、生徒たちに問いかけます。
「この“in tune”とはどういう意味だと思いますか?」
ひとりの生徒が、ためらいながら「チューニング」と答えます。

「楽器を調律するとき、音が合うと“in tune”になります。
世界が“out of tune”だというのは、うまく噛み合っていないということ。
じゃあ、Eurydice(エウリュディケ)が“世界をin tuneに戻すまで”と言うのは、どんな気持ちだろう?」

生徒たちは小さな声で意見を交わします。
「寒い」「食べ物がない」「生きるのが大変」
先生はひとつひとつ生徒の声を拾い上げながら、
「そう、彼女は”現実”を生きようとしている」とゆっくりつなげていきます。


このシーンでは、理想を信じるオルフェウスと、現実を見つめるエウリュディケの対比が描かれます。
“世界を音楽で変える”と信じる彼と、“食料と薪が必要”と訴える彼女。
神話では語られなかった、ふたりの間に流れる「生きることの重さ」。
そしてオルフェウスは、歌うことでその理想を形にしようとします。彼の歌は現実を変える魔法ではなく、世界がどうあるべきかを描く“希望の声”として響きます。Jon先生の授業では、その対立を英語で考えることが目的です。

先生は言います。
「I don’t want to teach you the song. I want to help you think about it.」
——“私はこの歌を教えたいんじゃない。君たちが考える手助けをしたい。”

英語を「教える」授業から、英語で「学ぶ」授業へ。ここで生徒たちは、登場人物の心情を読み取り、選択の意味を考え、異なる価値観を英語で共有する力を養っていきます。物語の理解を通して、他者の視点を想像し、言葉を通じて共感を深める力を培う授業です。


やがて先生が黒板に書いたのは一つの質問。
“What should Orpheus do now?”
オルフェウスはどうするべきか?」

エウリュディケを助けるか。
それとも、世界を救う歌を完成させるか。
生徒たちの答えはさまざまです。
「彼女を助けるべき」
「でも、歌えば世界を変えられるかもしれない」

Jon先生は静かにうなずきます。
「There is no right answer.」
——答えのない問い。だからこそ、考える。


生徒たちは、数回にわたる授業でこの“ハデスタウン”を通して、登場人物の心情や価値観、そして人間の選択の意味を英語で想いを巡らせていきます。
——英語の文法よりも、言葉の重さ。
——“Hope”よりも、“Believe”。

冬のように急に冷え込みはじめた昨今、心を灯すように進む英語の授業。
そこにあったのは、英語を学ぶ時間ではなく、言語を超えて世界や人の心を深く見つめる時間でした。(広報室)